読めば読むほど面白い小説に出会えなくなる現象についての確率からの解説
今年のミステリベストテンを選ぶ時期になった。
「最近、面白いミステリがなくて」と口にする人向けの話。
確率の文献を読んでいたら、「婚活をすればするほど最高の相手に出会いにくくなる」というのがあった。
ある観測系列において、それ以前の最高の値になる場合を『記録値』と呼ぶ。
この場合、n番めに観測されたものが『記録値(それまでの最高のものであること)』である確率は、1/nになる、という法則。
ひらたく言うと「後になるほど、次にあたるものが前回の最高値を上回りにくくなる」ということ。
婚活1回めに出会った人は比較するものがないので、「1度めの記録値」と考えます。これを上回る婚活相手に2度めに出会うためには、婚活7回めに出会った人となる。
こんな具合で、5度目にそれまでの記録値を上回る婚活相手と出会うためには、何回婚活をしなければならないかというと、147回必要なんだそうだ(鈴木義一郎『統計学で楽しむ』)
つまり何が言いたいかというと。
1)トシをくってくると「昔のミステリは良かった」ってな戯言がつい口をついて出てくるけど、それはミステリの巧拙とは無関係に、単に本人の読書経験からくる確率の問題だぜ、ということ
2)だからトシを食うと昔読んだ作品を上回るものを探そうとすると、若い読者よりも沢山読まなきゃいけないよん、と自戒しろよということ
のふたつなんでござる。
2017年10月28日(土)鈴木輝一郎小説講座のまとめとか
2017年10月28日(土)鈴木輝一郎小説講座のまとめとか
今回の講座は技術に泣かされた講座でござんした。
Wi-Fiルータが2年で壊れたので新調し、そのセットアップ。たいていここでつまずくんだが、うまくいったので鼻歌うたって本収録──したんだが思わぬところでコケた。Skypeが突然使えなくなった。Skypeに障害が発生したか、そんなところらしい。
やむなくプライベートのガラケーのハンズフリーモードで作品講評。
Skypeは使いにくく、利用者も海外在住の受講生はSkypeに慣れているけど国内に住んでいる限りSkypeはほとんど縁がないから操作に戸惑うことがおおく、事前の動作テストが欠かせない。
しかしなー……ガラケーのハンズフリーモードでなんとかこなせるのなら、講義専用に携帯をひとつ持ったほうがいいか(LINEはセキュリティに疑問があるので選択肢にはない)。月に一度しか使わないので、固定費がかからず、受信での会話がほとんど、という流れからすると、ソフトバンクのプリペイド携帯がいちばん低コストか。
結局、1時45分から5時半まで講義をやって、コマとコマの間のインターバル──というか、Skype接続で難渋したタイムロスが大きく、帰宅してタイムロスの部分をカットすると2時間10分ぐらい。
アップロードして配信。
いまデニーズでイアホンを耳に突っ込んでひとり反省会。前日に合気道ででけえ声を出したせいか、喉もそれなりに暖まっていて、比較的滑舌がよいところがいいかな。
ただ、「婚活が趣味なんですが、美人が好きすぎて」という質問があったんで、「どんなタイプの美人が好きかを考えなさい。たとえば吉永小百合と石川さゆりと橋本環奈では口説きかたが違うだろ」と答えたら、リアル出席した女性の受講生から、「三十そこそこの男性に吉永小百合はないと思います……」と突っ込まれたでござる。美人の感覚も古くなっていくのかしらん……
【業務連絡】鈴木輝一郎小説講座受講生のみなさんへ 2017年10月28日の講座動画&音声を一斉配信しました
●業務連絡(2017年10月29日記)
鈴木輝一郎小説講座受講生のみなさんへ
2017年10月28日の講座動画&音声を一斉配信しました。確認してください。
最近「書きあげただけ巨匠」を見かけなくなった(鈴木輝一郎小説講座雑感)
2017年10月28日の鈴木輝一郎小説講座のレジュメづくりに専念。作品講評3人ぶんとゲスト講師・大空なつきさんへの質問のとりまとめ。
作品講評、今月は「初診」が2人、「再診」が1人。まあ、あわせて3千枚の原稿をチェックし、だいたいの講義のテーマを決めてゆくわけだ。
以前は「書きあげただけ巨匠」がけっこうな割合でいた。長編を脱稿しただけで文豪になったと勘違いするケース。
これは、
1)周囲に長編を書き上げる人がほとんどいないから自分の立ち位置がわからない
2)長編を書き上げる小説的体力がないので、書き上げるだけで全力をつくし、「自分はすごいと思いたい」という願望
といった理由がある。
まあ、そんな具合に「書きあげただけ巨匠」は自信に満ち満ちているのでなかなか言動が面白い。
いちおう、鈴木輝一郎という小説家は読者からみてどの程度のポジションにあるかぐらいの自覚はあるんだが、「書きあげただけ巨匠」はモロに読者目線で見下してきたもんでござんした。
作品講評のとき、「初診」の人はそれまでの原稿のストックを何本か読むわけだが、講評のとき、そのストック原稿のツカ(原稿の束の厚さを横から)を動画で写すようにしてる。(もちろん、表紙だとか名前だとかがわからないように細心の注意をはらってます)。
これはけっこう効果があるかな? 「新人賞の応募者全員が長編を締切まで書き上げて投函している」って当たり前の事実は、頭でわかっていても割と実感できないんですが、目の前に次々と未発表の原稿の束を積み上げられると「自分の作品は書きあげただけ」とわかるみたい。
で、この1~2年、そうした「書きあげただけ巨匠」はあまり見なくなった(いないわけではない)。
作品講評のやりとりは素直だし、人の話にも聞く耳がある。鈴木輝一郎小説講座は作品の中身について細かくあれこれ言わないことにしているんだが、以前はそのことについてけっこう不満を言われたものなんだけど、最近はその不満もほとんど聞かれなくなった。
まあ、ぶっちゃけた話、「この人、チャンスさえあればプロでやってゆけるよなあ」って人が本当に増えた、ってことでもある。
まあ、そうして思うのは、「プロになったらやってゆける人」と「面白い作品を書く人」はかならずしもイコールじゃない、ってことかなあ。
才筆を感じさせる人は、どうしても取材力だとかコミュニケーション能力に難点があって、(取材力やコミュニケーション能力に難点がある人がすべて才筆を感じさせるわけではない。ただの「いろいろ入ってる人」であるのがほとんどだが)そういう人はプロには向いてない。
鈴木輝一郎小説講座でできるのは新人賞を受賞する程度の作家は育てられるけど、スターは育てられない、ってことだわさ。
【ゲスト乾緑郎】構成のどこに注意するか【鈴木輝一郎小説講座動画ダイジェスト】
【ゲスト乾緑郎】構成のどこに注意するか【鈴木輝一郎小説講座動画ダイジェスト】
「プロットの段階でしっかりつくる」とのこと
鈴木輝一郎小説講座は全国屈指のプロデビュー率。受講受付随時。ネット対応で世界中どこからでも受講できます。
受講受付随時 電話 0120-670-877 受付時間 10:00~18:30 担当 川島
鈴木輝一郎小説講座 2015年度の受講生実績はこちら>
https://www.facebook.com/kiichirosjp
「知らない相手に電話するのは抵抗ある」という人のためにネット申し込みにも対応しています。Web受付はぎふ中日文化センター>新規会員登録からどうぞhttp://www.chunichi-culture.com/center/gifu/
鈴木輝一郎小説講座動画ダイジェストチャンネルはこちら>
https://www.youtube.com/user/kiishirosjp
2017年10月18日日本推理作家協会70周年記念トークショーを見学してきたでござる
2017年10月18日(水)
日本推理作家協会70周年記念トークショー見学のまとめ
場所 イイノホール
時間 5時〜9時
ワークショップ 逢坂剛独演会&書評家座談会
西上心太 山前譲 吉田伸子
第1部 第70回推理作家協会賞受賞者&選考委員座談会
宇佐美まこと あさのあつこ
薬丸岳 道尾秀介
第2部 歴代理事長・代表理事座談会
阿刀田高 北方謙三 大沢在昌 逢坂剛 東野圭吾 今野敏
まずはイイノホールの職員の対応の素晴らしさに感動したでござる。
ワークショップは先着80名ってことだったんで、念のため開場の30分前にならんだが、隣の人が内蔵に障害があるらしく、
「立って並ぶのは辛いので座らせてくださいね」
と、床に直接座った。アレなんで椅子をもってきてもらうように頼もうかと係員さんを探そうとしたら、それより先に速攻で係員さんが椅子を持ってきた。
で、開場後にホールにはいるんだが、二階入り口からはいる。そのとき、足の不自由なかたが手すりにつかまり、杖をついて一歩踏み出した瞬間、職員さんが飛んできて、「こちらに」と、1階非常出入り口に通した。
こういう機敏さは、帝国ホテルか宮内庁でしか見たことがなかったんで、ものすげえびっくりした。
ワークショップの「逢坂剛独演会」っていったい何をやるのか、さっぱり見当がつかなかった。
同行してくれた知人と、
「まがりなりにも『推理作家協会の70周年記念ワークショップ』だからなあ。まさか西部劇の拳銃の早抜きショーとか、フラメンコギター演奏じゃないよねえ」
と冗談で軽口を叩き合っていた。
……本当に西部劇の拳銃の早抜きショーとフラメンコギター演奏だった。
逢坂さんを甘くみていました。ごめんなさい。思いっきりウケちゃったでござる。ここでこうくるか。
後半の書評家座談会は、逢坂剛さんが加わった。
内容については「オフレコ話だから」ってことが多かったので詳細はパスね。
「書評家で妻帯者は山前譲さんぐらい。それ以外の妻帯者は、サラリーマン時代に結婚してから書評家になった」って指摘があってびっくりしたが、言われてみればその通り。なぜなんだろう。
第1部の推理作家協会賞受賞作家トークショーは1時間。内容については著作権のからみもあるので詳細はパス。
印象的だったのは、宇佐美まこと・あさのあつこ両氏が、1時間のトークショーの間、まったく背もたれにもたれかからなかったこと、ですな。作家も見た目が大切です。
第2部は大沢在昌さんがMCで2時間。これも内容は後日毎日新聞とJTのサイト『嗜好と文化』で詳細がレポートされるので詳しくはパス。
著作権に関係なさそうな話題としては、
「舞台では靴と靴下は意外と目立つ」
ということ。
阿刀田さんと北方さんがものすげえ上等な靴を履いていたのと、逢坂さんのスニーカー&カラフル靴下がおしゃれだったでござる。
あと、意外と靴下はずり下がってくる。自分がステージに立つときは、靴下じゃなくてストッキングにしなきゃなあ。
それから、誰がどの話をしたかというのは公式のレポートが出たときに読んでいただくとして、
「次世代の作家に伝えたいことは?」という質問に対し、
「きちんとした日本語を書こう」「とりあえず書きまくろう」という具合に、うちの講座でいつも言ってるワードがずらずらと。
岐阜に住んでいると、これだけの規模のトークショーや講演を聴く機会は決して多くない。ノートは書き込みでびっしり。本当に勉強になったでござる。
泊りがけで足を運んでよかったっす。
松本清張を超えた!加藤元『1999年の王』(角川書店)
加藤元『1999年の王』(角川書店 2017/9/30)読了、感想。
これは超超超超超収穫です。ミステリ関係者は必読。
保険金殺人のクライム・サスペンスです。ストーリーはきわめてシンプル。保険金殺人を手がける男の成育歴話です。
どこが凄いか? 犯罪を扱ったフィクションは、どうやっても嘘臭さから抜けられない。身近に犯罪者はいないから「現実っぽいファンタジー」になるのは避けられない。
本作は、まるでルポのよう。しかも現実の保険金殺人のルポは皮肉なことに極端すぎて現実離れしすぎてる。本作は「読者と等身大の犯罪者」になってる。
かつて「ミステリでありながら人間を描くことはできないか」ってな流れで社会派ミステリが生まれたんだが、松本清張は現代の感覚からは遠いし、いま読んでみると、言われているほど松本清張はすごくない。
本書はかつての社会派ミステリ以上に、「犯罪で人を見つめなおす」作品で──ええい、言ってしまおう、松本清張よりすごいぞ。
ここを読んでいる書店員さんは速攻で買いなさい。書評仕事で貰った業界関係者はとりあえずページを広げなさい。いまなら店頭に並んでいるので、近所の書店にいますぐ行って買ってきなさい。近所に書店がない人は、この下のKindle本のリンクから速攻で買いなさい。Kindle本だと無料サンプルがあるので、試し読みもできる。
凄いぞ。