小説家鈴木輝一郎のはてな日記

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鈴木輝一郎の2016年のミステリ・ベスト5

週刊文春のミステリ・ベストテン、公表が終わったので、ぼくの投票も出していいですね。

1位
柴田よしき『青光の街(ブルーライト・タウン)』早川書房 (2016/10/21)
作家で探偵社の所長が主人公のサスペンスなんですが、とにかく小説技術がすごい。多視点でスピーディに場面も転換してゆくんだけど、読んでいて混乱しないしものすげえ読みやすい。
2位
神家 正成 『七四(ナナヨン)』(宝島社 2016/9/24)
ミリタリーミステリというと福田和代、というイメージがあるんですが、こちらもけっこうすごい。74式戦車が密室状態にあって密室殺人が、と、シンプルな内容に綿密な造作。
3位
新津きよみ『神様からの手紙 喫茶ポスト』(角川春樹事務所 (2016/10)
喫茶店の店内にあるポストに投函すると、届くはずのない人に届いて返事がきて、という話。これ、ウエットな話にしちゃいがちなんだけど、ちゃんとかっちりとした推理小説に仕立てちゃうところが凄い。
4位
福田和代『火災調査官』東京創元社 (2016/9/30)
火災調査官を扱ったミステリ。「緻密な取材と圧倒的なリーダビリティ」は本当。
みっちり書き込んであるのになぜこんなに読みやすいのか。
5位
伊東潤『横浜1963』( 文藝春秋 2016/6/8)
とにかく映像的なのと、60年代の、戦後の荒廃のあとと高度成長期独特の空気が満載。昭和を歴史小説の手法で書くところに意表を突かれました。うまいっすねえ。

番外
津田彷徨『ネット小説家になろうクロニクル』講談社 (2016/9/16)読了、感想。これは超超超超超収穫──というか、小説家志望者は必読、かな。小説の書き方本ではなく、小説投稿サイトでランキングを上げるノウハウ本です。
小説の新人賞の落選作を説投稿サイトに流用することは、ぼくはきわめて否定的です。
第一の理由は本書であきらかなように、それ専用のノウハウで書かれた作品に太刀打ちできないから。
第二の理由は、小説投稿サイトで作品を公表してしまうと、デビューしたあと、出版社に提示するストック原稿がなくなってしまうから。
小説投稿サイト経由でデビューするのであれば本書に目を通し、本腰いれて投稿サイトにとりかからないと、とてもじゃないけど歯が立たないわなあ。