小説家鈴木輝一郎のはてな日記

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2018年9月7日清原和博はひとごとではない

2018年9月7日清原和博著『清原和博 告白』(文藝春秋2018/7/27)読了、感想。これは収穫。
薬物依存症の現場を知っている者としては、薬物に依存するプロセスがよくわかる良書です。

著者が超有名人なので忘れられがちですが、薬物依存症者としては「とてもよくある事案」です。
レビューなどをみると「家庭崩壊へのプロセスが書かれていない」「薬物を入手した経緯が書かれていない」という意見が目につきますが、そのレビューは単に「成功者の転落を味わいたい」っていう種類のものですね。
本当に家庭崩壊のプロセスや薬物の入手経路を知りたければ、ダルクの体験談などに目を通せばそれで十分です。
本書で重要なのは、「著者がいかに野球に依存していたか」というところです。

薬物依存症の場合、回復の途上で鬱病を誘発することがあります。インタビュー時の様子が描かれていますが、不安そうな様子や落ち着きのなさなどから、インタビュー時は「クスリが体から抜けただけ」という状態だろうとおもいます。
「逮捕されてから2年経っているのに、まだクスリが抜けきっていないのか」といわれるかもしれませんが、薬物依存症からの回復は個人差がとても大きい。

だいたい、インタビュー時の清原氏ぐらいの状態で精神病院から退院し、ダルクなどの中間施設で社会復帰へのリハビリをはじめます。
そのことを考えると、インタビューはかなり早かったのではないか? とは思います。

『告白』を読んでみると、清原氏が野球と、それにともなう称賛に強く依存していたのを感じます。
仕事に依存している場合、仕事に挫折や限界がみえたとき、依存対象をべつのものにスライドさせるのはよくあることで、清原氏の場合、たまたまそれが覚醒剤だった、ということです。アルコールに依存する場合、違法ではないのであまり騒がれない(暴行などの二次被害が出た場合は別です)のですが、潜在的にとてもよくあります。

奥さん・子供に執着している様子がうかがえますが、これもまた、回復期にみられるもので、家族に依存している状態です。

「とにかく急いで野球以外のものに人生の楽しみをみつけなさい」というのが、依存症の現場を知る者の実感です。

また、覚醒剤の多用によっていろんなものが破壊されているので、その回復も必要です。
「朝おきて夜寝る」という規則正しい生活は覚醒剤で吹っ飛んでいるはずですし、金銭感覚も壊れているはずなので回復が必要です。

薬物依存症から回復するのは想像以上に時間がかかります。
短くて2年、清原氏のようにもともと強い依存症体質がある場合、十年かかる例も珍しくない。

いまのまま社会復帰するのは、骨折したまま打席に立つようなもので、すぐに再発するだろう、と強く思います。

あと、注意を。

清原氏の病気はひとごとではない、と。

誤解されやすいのですが「覚醒剤をキメるのは違法だから悪い」ではなく、「覚醒剤をキメるのは悪い結果をもたらすので違法になった」です。

我々の日常生活では、合法的だが依存性の高いものに囲まれています。

アルコールや睡眠薬、風邪薬、頭痛薬などの合法薬物のほか、ゲーム、携帯、仕事など、さまざまです。

現在、青少年のネット依存症が取り沙汰されていますが、青少年のネット依存症で不安なのは、依存症はいちどかかると依存対象をかえてゆく、ということです。ネット依存症にかかった場合、そこから大麻覚醒剤へとスライドする可能性は十分ありえます。

いずれにせよ。
清原和博はひとごとではない」
って話です。

清原和博 告白

清原和博 告白