小説家鈴木輝一郎のはてな日記

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2018年7月23日午前5時58分 日常系の小説家志望者は必読の本

2018年7月23日午前5時58分 日常系の小説家志望者は必読の本
碧野圭『駒子さんは出世なんてしたくなかった』(キノブックス2018/2/28)読了、感想。
これは超超超超収穫。2月刊行の作品の感想をいまさらあげるのもナンですが、手元にメモしたままだったんで。
大手出版社の編集総務だった女性が次長に昇進してうんたら、専業主夫だった夫が子供の自立をにらみながらかんたら、という話です。
さすが、うまいっす。

こういう日常系のお仕事小説は、小説家志望者はかならずみんな書きたがるんだけど、必ずコケるんだよね。
小説技法的には小説は「登場人物を非日常なイベントに放り込んでスリルを出す」というセオリーがあるんだけど、日常系のお仕事小説に非日常のイベントを持ち込むと日常系ではなくなってしまうという、構造的な矛盾をはらんでいる。
早い話が、「簡単に書けるようにみえるけど『面白く書く』のはむちゃくちゃ難しいジャンル」なわけだ。

年上の部下とのいさかい、部下が受けたセクハラの処理、仕事を再開しようとした専業主夫と子供とのトラブル、という具合に、小刻みに、でも次々と「あるある」だけど「たいへんそう」ってものが襲ってくる。

日常系のお仕事小説を書こうという小説家志望者は必読、って断言しちゃいますね。
なにせ殺人事件なんて遭遇しないし、警察のご厄介になった知り合いがいるケースも滅多にないんで、刑事事件激減の昨今、ミステリーを書くのはたいへんだ。
で、たいていは、
1)異世界モノ
2)主人公が高校生の青春小説
3)主人公が養護施設育ち
4)主人公が二十代女性、日常系のお仕事小説で、知らない業界にとびこんで頑張る話
のどれかを必ず書くんだが、まあ、だいたいどれもうまくいったためしがない。
ようするに、どれも見た目が簡単そうなんだよね。

「小説を書くための教材として読む」ってのはあまり上品な読み方ではないんだけど、日常系のお仕事小説を書こう、って人は読んでおいたほうがいい。
ひっかかりなくさらっと読めるので凄さがわからないだろうけど、お仕事小説の場合、さらっと読めてしかも読後に残る、ってのを書くのは難しいんだ。

なにせ半年近く前に出た本なので書店の店頭に並んでいるかどうか、ちと自信がないんだけど、お近くに書店がある場合は取り寄せて。お近くに新刊書店がない場合はamazonで。

駒子さんは出世なんてしたくなかった

駒子さんは出世なんてしたくなかった