小説家鈴木輝一郎のはてな日記

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小説新人賞の選評をExcelで解析してみた=小説家志望者たちの幻想と現実の選考要素には違いがある

2018年2月28日小説新人賞の選評をExcelで解析してみた=小説家志望者たちの幻想と現実の選考要素には違いがある

鈴木輝一郎小説講座の受講生から「小説現代新人賞http://shousetsu-gendai.kodansha.co.jp/prize/)の予選の選評をExcelでまとめてみました」とメールがきた。
チェックしてみるといろいろおもしろいので、転載許可をもらって、公開します。まとめた受講生はまだ新人賞に挑戦している最中なので名前等はパスね。

対象としている選評は小説現代新人賞の10回~12回の1次予選~3次予選。
なぜまとめたのかというと、
「同じような指摘が多い」
「そういえば輝一郎先生も似たような話をしていた」
ってことだそうです。

☆結論を先に書くと、
あ)キャラクター造形とオリジナリティとリアリティに力をいれる
い)賞の傾向は関係ない
う)ラストをきっちりと
の3つに集約される、ってことです。

☆以下は集計のまとめ。

○決定的なのはオリジナリティと人物とリアリティ
 本選考での指摘は以下の4点に集中しています
1)オリジナリティに欠ける
2)人物が描けていない
3)リアリティがない
4)読後感が悪い

 これに対して、「会話の違和感」「題材選択ミス」はゼロ。
つまり、
1)いわゆる「カテゴリーエラー」や「賞の傾向」はあまり気にする必要はない
2)会話の違和感等は本選考ではあまり問題にならない
ということです。

○プロットの難と描写不足は比較的重要ではない
「プロットに難あり」と「描写不足」の2つでは、1次・2次と最終での評価におおきな隔たりがあります。

「構成(プロット)に難あり」というのは1次の段階で79件、2次の段階で20件の指摘があるのに最終で指摘されたのはわずかに1件。
つまりプロットは「予選委員が気にするほどには選考には影響しない」ということです。
ただし、1次から3次までの予選段階では一定の比率でまんべんなく指摘されているので、「万人受けするためにはプロットの工夫は必要」ということもいえます。

「描写不足」も1次の段階で47件、2次の段階で6件の指摘があるのに最終で指摘されたのはわずかに1件。
よく「説明よりも描写」といわれますが、実は描写不足も「予選委員が気にするほどには選考には影響しない」ということです。

☆自分の講義の反省とか
鈴木輝一郎小説講座では受講生の個性を殺さないよう、指摘は最小限にとどめるように心がけています。
「どうでもいいような細かいところまで口を挟んでいないよな?」と戦々恐々としながら検証したんですが、キャラクター設定に集中して話しているので、ほっとしました。
あと、人物造形に集中しているところが、結果的に最終で有利に働いているんで、鈴木輝一郎小説講座の受賞者の異様な多さというのは、まあ、まんざら偶然でもなかったんだな、と思った次第。

※まとめたExcelの表は「レベル別指摘数」の小計がなかったので、鈴木が付け加えました。

※この表ははKH Coder(http://khc.sourceforge.net/)のようなテキストマイニングソフトを使った解析ではなく、人力で抽出したものとのこと。
ただ、本人はこの種の解析をするのが仕事の人なのと、実感として把握しているので、精度については信頼してよかろうとおもいます。

※新人賞によって選考方法に若干の違いがありますが、目安としては
1次通過とは、外部の予選委員・下読みが目を通したもの。
2次通過とは、編集者が目を通したもの。たいていは1人の編集者が読みます。
3次通過とは、2次を経て編集部内で回覧したもの。部内回覧で4~5作の最終候補作品を選びます。
最終とは、本選考での選考されたものです。

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