小説家鈴木輝一郎のはてな日記

公式サイト(http://www.kiichiros.com)のブログ版です

池上遼一『信長』は歴史小説を書く教科書だ

工藤かずや・池上遼一『信長 1~8』(グループ・ゼロ (2015/10/21)読了、感想。これは超超超超収穫でした。1986年に刊行されたコミックのKindle版。コミックまとめ買いセールのときに買っておいて積んであったものです。
考証や史実に事実誤認があったり、信長の描き方がきわめてオーソドックスだったり(これは1986年の発表時ですでにスタンダードな描き方をしてた)、なにせGoogleアースも何もなかった時代に描かれた作品だけに地理におかしなところがあったりするんですが、とにかく面白い!
織田信長を正面から正統的に描くのは勇気がいるんですが、これ、変化球ではなく、ちゃんと「読者の期待する信長像」を押さえてますね。作品が描かれた当時の通説にも可能な限り忠実に描こうとしていますし。
手垢のついた素材を、読者の期待と著者の満足のかねあいをつけながらどうやって描くかというのは、歴史小説を書くうえではとても難しい問題でもある。
「ほー」とか「へー」とかいいながら夢中で読みました。