小説家鈴木輝一郎のはてな日記

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読めば読むほど面白い小説に出会えなくなる現象についての確率からの解説

今年のミステリベストテンを選ぶ時期になった。

「最近、面白いミステリがなくて」と口にする人向けの話。

確率の文献を読んでいたら、「婚活をすればするほど最高の相手に出会いにくくなる」というのがあった。

ある観測系列において、それ以前の最高の値になる場合を『記録値』と呼ぶ。

この場合、n番めに観測されたものが『記録値(それまでの最高のものであること)』である確率は、1/nになる、という法則。

ひらたく言うと「後になるほど、次にあたるものが前回の最高値を上回りにくくなる」ということ。

婚活1回めに出会った人は比較するものがないので、「1度めの記録値」と考えます。これを上回る婚活相手に2度めに出会うためには、婚活7回めに出会った人となる。

こんな具合で、5度目にそれまでの記録値を上回る婚活相手と出会うためには、何回婚活をしなければならないかというと、147回必要なんだそうだ(鈴木義一郎『統計学で楽しむ』)

つまり何が言いたいかというと。

1)トシをくってくると「昔のミステリは良かった」ってな戯言がつい口をついて出てくるけど、それはミステリの巧拙とは無関係に、単に本人の読書経験からくる確率の問題だぜ、ということ

2)だからトシを食うと昔読んだ作品を上回るものを探そうとすると、若い読者よりも沢山読まなきゃいけないよん、と自戒しろよということ

のふたつなんでござる。

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