小説家鈴木輝一郎のはてな日記

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柴田よしき『理由』は数年に1度の傑作短編ミステリだ

柴田よしき『理由』(アンソロジー『隠す』文藝春秋(2017/2/9))読了、感想。
これはミステリ短編超超超超超収穫。短編ミステリとしては「数年に一度」傑作。自分の読書リストは自前のサイトでチェックでき、確かめたうえで言っているので誇張じゃござんせん。本当にそういう水準。
トーリーはシンプルで、人気芸人を刺した女性の動機についての謎。
とにかくリアリティに徹していて、警察のできること・できないこと・できる範囲でわかること・そのなかで推理できること、ということの取材が綿密なこと、そして登場人物たちが、「犯罪という非日常に巻き込まれた普通の人々(これは実は書くのがものすげえ難しい)」で、動機もわかるし、動機が解明されてゆくプロセスが次々と畳み込まれていきます。
短編ミステリを書く定石としては、できる限りシンプルに、テーマから外れるものは外してゆき、リアリティには目を閉じることも少なくない。短編ミステリの場合、刑法犯をからめると読者の共感を得るのが難しいく、「日常の謎」で勝負したほうがおさまりがよくなる。
こうした定石は定石だけの理由があって、定石を押さえると確実に一定水準の面白さが出る。
定石を外すと傑作が生まれることがしばしばあるんだけど、勇気がいるんだよね。
この短編は、そういった短編ミステリの定石を外し、徹底的にがっつり詰め込んである。短編ミステリって制約が多いんだけど、ここまでのことができるんだ、とあらためて学んだんでありました。
他の収録作も面白いんですが、本作が突出してよかったんで、とり急ぎレビューを。
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