小説家鈴木輝一郎のはてな日記

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赤穂浪士討ち入りの決算報告書はちょっとだけ持ち出しという真実

東急ホテルのPR誌「Comforts」2016年12月号掲載の「歴史空想対談 堀部安兵衛」から。

赤穂浪士の討ち入りの原資って、どこから出ていたか知ってましたか? 赤穂事件の収支報告書が遺されていて、何にいくらかかったか、記録が残ってる。

ものすげえ意外なことに、赤穂浪士の討ち入りの経費内訳で、もっとも大きかったのが「交通費」で、その次が「滞在費」。武器類の購入費は1%に満たず、ほいでもって赤穂浪士の討ち入り経費は本当にちょこっとだけマイナスで、そこから決断内容がみえる、とかそんな話。

下記からPDFで見られるので、どうぞ。

http://tokyuhotels.meclib.jp/ComfortsDigital_Vol59/book/index.html#target/page_no=28

 

なにごとも突き抜けることが大切で音痴芸がすごいフローレンス・フォスター・ジェンキンス

落語の『寝床』のオペラ版で実在し、二度も映画化されたフローレンス・フォスター・ジェンキンスの歌声がYouTubeに残っていた。
名古屋にお住まいのかたなら「東海ラジオの天野良春アナの歌声の女性版」というのがもっとも近い。
いろんな意味で感動的なので、ぜひ聴いてみてくださいな。
音痴もここまでくると芸術でござる。

www.youtube.com

壇蜜は「グラビアのできる西原理恵子」だった

壇蜜×西原理恵子銭ゲバ問答「幸せはカネで買えるか」文藝春秋 (2015/11/27)読了、感想。対談です。
これは超超超超収穫。Kindle版限定の対談です。Kindle読み放題の対象なんですが、購入しても99円なので買うほうをおすすめします。
壇蜜はエッセイがとても才能を感じさせて素敵なんですが、はしばしに「壇蜜という仕事をしている」感じがあって──というか、「壇蜜のプロ」というか、このニュアンス、わかりますか。
この感じ、誰かに似ているなあ、と思っていて、この対談を読んでものすげえ納得しました。
「女同士で友情が成立するか?」との質問に「男の好みがカブらなければ大丈夫」って答えで一致したり、「男で大切なのは定職」ってのは至言ですな。
それにしても壇蜜に、
「路チューしないでどうやって男とつきあうんですか」
っていうのを読むと、納得するよね。
やはり、男女の仲に路チューは重要。

鈴木輝一郎の2016年のミステリ・ベスト5

週刊文春のミステリ・ベストテン、公表が終わったので、ぼくの投票も出していいですね。

1位
柴田よしき『青光の街(ブルーライト・タウン)』早川書房 (2016/10/21)
作家で探偵社の所長が主人公のサスペンスなんですが、とにかく小説技術がすごい。多視点でスピーディに場面も転換してゆくんだけど、読んでいて混乱しないしものすげえ読みやすい。
2位
神家 正成 『七四(ナナヨン)』(宝島社 2016/9/24)
ミリタリーミステリというと福田和代、というイメージがあるんですが、こちらもけっこうすごい。74式戦車が密室状態にあって密室殺人が、と、シンプルな内容に綿密な造作。
3位
新津きよみ『神様からの手紙 喫茶ポスト』(角川春樹事務所 (2016/10)
喫茶店の店内にあるポストに投函すると、届くはずのない人に届いて返事がきて、という話。これ、ウエットな話にしちゃいがちなんだけど、ちゃんとかっちりとした推理小説に仕立てちゃうところが凄い。
4位
福田和代『火災調査官』東京創元社 (2016/9/30)
火災調査官を扱ったミステリ。「緻密な取材と圧倒的なリーダビリティ」は本当。
みっちり書き込んであるのになぜこんなに読みやすいのか。
5位
伊東潤『横浜1963』( 文藝春秋 2016/6/8)
とにかく映像的なのと、60年代の、戦後の荒廃のあとと高度成長期独特の空気が満載。昭和を歴史小説の手法で書くところに意表を突かれました。うまいっすねえ。

番外
津田彷徨『ネット小説家になろうクロニクル』講談社 (2016/9/16)読了、感想。これは超超超超超収穫──というか、小説家志望者は必読、かな。小説の書き方本ではなく、小説投稿サイトでランキングを上げるノウハウ本です。
小説の新人賞の落選作を説投稿サイトに流用することは、ぼくはきわめて否定的です。
第一の理由は本書であきらかなように、それ専用のノウハウで書かれた作品に太刀打ちできないから。
第二の理由は、小説投稿サイトで作品を公表してしまうと、デビューしたあと、出版社に提示するストック原稿がなくなってしまうから。
小説投稿サイト経由でデビューするのであれば本書に目を通し、本腰いれて投稿サイトにとりかからないと、とてもじゃないけど歯が立たないわなあ。

鈴木輝一郎小説講座2016年11月26日講義のまとめ。

※業務連絡&おまけ講義

 生中継のテストを兼ねたおまけ講義。

 テーマは「書き続けよう」「長編の埋め方の秘訣 PC執筆にこだわらない」

 という話。「シーンの階層管理」ってネタを用意していたけど、時間がなかったのでこれは来月。

※ゲスト講師&課題図書 神家正成『七四(ナナヨン)』(宝島社

 ガラケーのスピーカーフォン機能を使った電話インタビュー。

「二作目の壁の高さ」「うんちくの書き込みかた」というテーマ。

※作品講評は3人

 スカイプ講評1名、リアル受講生2人。

 スカイプの調子がよくなく、結局携帯のハンズフリーで。

 某新人賞の最終選考にのこった著者の次作についてのチェック。最終や受賞は運に大きく左右されるとはいうものの、すこしいじれば劇的によくなるので。

 あとは「予選をいったりきたり」という水準。予選落ちにマグレの入る余地はないので、「場」の概念の解説と、シーンの明示についての解説。

 短編は生まれつきの才能におおきく左右されるけれど、長編は取材力さえきちんとしておけば割となんとかなる。

 取材で不足している部分の指摘などなど。

 多視点で書く場合、新人賞の「500枚」というシバリはどうしても視点者が増えると、どうしてもスペースが足らず、視点者の描き分けが難しくなる、とか、そんな話。

 基本的に、割と毎回似たような話をしています。みんな同じところでコケる。ここいらは万年予選落ちの人も最終選考の常連も同じ。

鈴木輝一郎小説講座受講生逸木裕さんの横溝正史ミステリ大賞授賞式に出席してきた

角川三賞に出席。鈴木輝一郎小説講座の受講生・逸木裕さんが横溝正史ミステリ大賞を受賞したんで、その授賞式に出席のため帝国ホテルへ。
鈴木輝一郎小説講座は名古屋で1年半、岐阜で6年半と、歴史の浅い講座ながら現在デビューしているのは9人。にもかかわらず「授賞式のある新人賞」の受賞者は今回が初めて。
意外と知られていないけれど、文学賞の経費のなかで最もかかるのがこの「受賞パーティー」の費用。だから、1作で消えちゃうかもしれない新人のためにわざわざ受賞パーティを開くのは江戸川乱歩賞だけ。ほかの文学賞(中堅や巨匠にあげる文学賞ね)と一緒にひらくこともあるけど、それもごく一部。
あと、小説講座の先生ってのはしょせんは縁の下仕事で、受講生がデビューすると用なしになるもんだが、逸木さんはなかなか義理堅く、受賞の言葉やインタビューなどで鈴木輝一郎小説講座のことをこまめに口にしてくれるのがなかなか気持ちがよろしい。
虹を待つ彼女 (角川書店単行本)

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村田 沙耶香 『コンビニ人間』はコミュ障の生き方ガイドブックだ

村田 沙耶香 『コンビニ人間』(文藝春秋2016/7/27)読了、感想。これは超超超超収穫。芥川賞受賞作。。
内容はごくシンプルで、コミュニケーション障害のある女性が、いわゆる厨二病の男性と知り合ってうんぬん、というストーリー。。
コミュニケーションに問題がある主人公が、社会とのつながりを維持するための装置として、がっちりとマニュアル化されたコンビニの世界にはまりこむ、という設定は、説得力もあるし納得もできる。。
「ほお」とか「ううむ」とか「あるある」とうなずきながら夢中で読んだ。
「生きるのが辛いなあ」とおもっているあなたに必読の書。。
ものすげえ売れ行きだそうで、岐阜のど田舎の書店にも陳列してあった。紙の本が好きという人はお近くの書店で。リンク先はKindle版。
コンビニ人間

コンビニ人間